さよなら、ギャシュリークラム

遺書を書かされています

「まっさらな紙に不安と疑心を落とす」

 

『何気ない日常を切り取った写真を投稿するだけのブログです』

 そんな文字列を眺めながらため息をつく。そんな何気ない日常に常に映り込む、創作された野暮ったい表情を露わにする女は一体なんなんだ。贋作まがいのフィクションに僕は苛立って、気付けばパソコンのキーボードを殴っていた。残念なことにキーボードにも僕の拳にもダメージはない。残念だ。とても残念だ。何かしらにこの戸惑いをぶつけていないと心臓を吐き出してしまいそうだ。吐き出された心臓はもう到底飲み込むことなど出来ないだろう。

 干されっぱなしの洗濯物も、とっくに変えたと嘘をついてチカチカし始めた蛍光灯も、今の僕の心を荒ませていく一つの要因であって、この感情が晴れる方法など何一つとして思いつかない。僕自身に原因があるわけじゃあない。飲み干したタンブラーの中の濁った液体も、食い散らかされたまま積み上がったカップ麺の山も、伸びきった顎の髭も、誰かに対する当て付けのように処理するつもりすらない。

『みじめなひと』

 ディスプレイに写った少女がそう言って笑った気がした。

 共用のパソコンの検索履歴から拾い上げた誰かのブログ。ページを進めるごとに清廉かつ淫猥な彼女の表情が溢れ出る。街角、桟橋、公園、遊園地、屋上、ベランダ、キッチン、ベッド。僕の知らない彼女の表情は、僕の知らない男の手で汚されていく。冷たい感情で、冷えきった指先でキーボードを叩く。

『きみはいまどこにいる』

 コメントは承認されないまま、何度もエンターキーを押した。

 借用書が投函され続けている。電話も鳴り続けている。テーブルの上に広がった便箋に目を落とす。

 

「さよなら、ありがとう。私のことを忘れてほしくないから借りた金は返さない」

 

 あの日渡した合鍵と貸した名前が、僕の心から君を追い出せない理由。