さよなら、ギャシュリークラム

遺書を書かされています

「夏の水槽に腐った魚」

「誰も教えてくれなかったんです」
矢継ぎ早に浴びせかけられた詰問に対して、僕はそう答えた。
「なら最初から誰かに教えてもらえ。受け身の姿勢でいるなよ」
勝ち誇ったような僕の嫌いな顔で、そいつは鼻を鳴らした。
 僕は既に"こと"が始まり済んでいたことすら知らなかった。それなのに一体誰から何をいつの時点でどんな方法で教えてもらうべきだったのか。
 それすらも答えてくれず、教えてくれない。誰も、示してくれない。
 適当に返事をすればふざけるなと怒鳴り、真面目に返事をすれば返事だけは一丁前だなと詰られる。僕はもうどうしていいのか分からない。
 殴る痛みも、殴られる痣も知らずに生きていくなど、到底無理なのではないですか。きっとこうしてる間にも誰かが死んで、僕以上の綻びをその胸に宿したままメディアに惨たらしく美談扱いされるだろうに。
 僕が彼を殺してしまったら、美談にしてくれますか?
 僕が彼に殺されたら、責任を取ってくれますか?
 溶けたアスファルトは、いつしか僕を包み込んで、廃棄されたアルコールのような腐臭を発しながら空を目掛けてく。
 それはさながら、自殺した幸福論者が夢見た、夏の一時の幻であって、僕の今後の生活にはなんら関わりのないことなのだった。
 勝ち誇ったあの顔を、握り拳の中の無数の釘たちがズタズタにボロボロに汚していく夢を見た。無性にスイカが食べたくなった。暑くもない夏の午後は、こうして息の根を止めていく。